ジョン・コーツIOC調整委員会委員長・ATR独占インタビュー

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(ATR Japan)国際オリンピック委員会(IOC)のジョン・コーツ調整委員長は2月28日、ATRのエド・フーラ編集長の独占インタビューに応じ、「2020年東京五輪の競技場変更は20億㌦(約2400億円)の経費削減になるだろう」との見通しを明らかにして、東京五輪組織委員会が打ち出した大幅な方針転換を支持すると語った。また、野球・ソフトボールが追加競技・種目に採用される可能性があるとの見解を示した。(以下はコーツ委員長との一問一答)

- ジョン・コーツIOC調整委員会委員長・ATR独占インタビュー -

――1990年代シドニー五輪のリーダーの一人としてのあなたの経験から、2020年東京五輪に適用できるものはありますか。
すべてです。私の(五輪大会に関する)哲学はまず選手ありきです。適切な選手村と競技会場、効率的な輸送手段などです。そしてこれらを最高のものに仕上げれば、最高の五輪大会を開催できます。他のことを優先する人たちも一部にはいましたが。
シドニー大会での私の経験からいえることは、選手に焦点を当てているということこそが、よい方向に向かっているということだった、ということです。そしてそれが正解でした。私たちは選手ありきで始め、それが良い大会運営につながりました。

――五輪招致に成功した都市のほとんどで、招致時からの競技会場の変更がありますが、2020年東京五輪はこの点で五輪記録を打ち立てるようです。この点についてなにか驚きはありますか。
評価委員会は競技会場変更の可能性について事前に認識していました。そして、私たちの中にはオリンピックアジェンダ2020で、既存の競技会場や将来使用可能な競技会場の使用を認めることを事前に察知している者もいました。したがって、この議論は去年12月にモナコで開かれたIOC総会後に浮上したわけではありません。競技場の見直し作業の多くは、過去6ヶ月の間に行われていました。
2020年東京五輪の改訂予算案は、東京電力福島第一原発事故の結果として建設費が高騰したことを反映しています。ただ、原発事故の影響については事前に分かっていたことなので、東京五輪組織委員会は費用面の見直しに迫られることも分かっていました。私たちと東京五輪組織委は、コスト削減の目的に関する共通性認識を持っていたということです。
私たちはできる限り、既存の競技会場を使用してもらいたいと思っています。肝心なのは収支決算です。競技会場の建設費用で10億ドルの経費削減が可能です。これは小さな金額ではありません。最終的には20億ドル(約2400億円)にもなります。

――あなたはこのような大幅な競技会場の変更を認めるのでしょうか。1993年にシドニーが五輪招致に成功した際には、こんな事態に陥ったことは無かった。
そうですね。確かにシドニーではこのような事態に陥ったわけではないが、IOCが組織委員会を支援する用意があるという柔軟性の問題です。

――バスケットボール、馬術、バドミントンと東京五輪では3つの競技会場変更がすでに認められています。次はどの競技会場でしょうか?
立候補段階で17または18の競技会場を確認しました。(このIOC理事会で)新しい会場を承認しました。つまり、8−10カ所が残っている計算になります。このうちのいくつかは立候補ファイルから変更となります。さらなる経費削減につながります。
セーリングとトライアスロンの競技会場には、羽田空港の飛行路上の問題があります。港湾の防波堤の建設費が高価なため、すでに当初のセーリング会場を移動しました。そこで東京五輪組織委は別の会場を指定したのですが、そこには飛行経路や安全性の問題があったのです。
2012年ロンドン五輪やアメリカズカップの報道はセンセーショナルなもので、このまま看過してしまうのは残念です。私たちは新しいセーリング会場を視察してきました。新らたな防波堤を建築する必要がないため、大幅な経費節約につながるけれども、飛行路の問題を解決できそうもないので別の会場を探しています。また、この会場についてですが、選手がマリーナから競技場に行くのに14キロもありました。IOCはこの変更を望んでいました。
他の主要な変更は、周知のことですが、国際自転車競技連盟と議論となっているものです。マウンテンバイクとBMXのための仮設競輪場の建築案がありました。これら会場の建設費用は2億ドル(約240億円)にも達し、大会後には解体されてしまう。
自転車競技場は原案から1時間半離れている伊豆にある既存のものに完全移動することの提案がなされています。この場合、選手は近くのホテルなどに設けられた分村に滞在する必要があります。この競技場の観客収容人数現在3500人ですが、4200人まで拡大することが可能です。ただし、これでは5000人という理想的な収容人数には足りません。
しかし、そこにはすでにBMXとマウンテンバイク用の競技場があります。これで2億ドル(約240億円)近くの経費削減になります。この案は現時点では国際自転車競技連盟に付議しています。連盟には、これが大幅な経費節約であり、(五輪の)持続可能性につながることを理解してもらいたい。
他の大きな問題はトライアスロン会場です。これは、飛行路にまたがってしまっています。しかし、トライアスロンのようなすばらしい競技は都心部で開催したい。同様に、自転車のロードレースでは二週間の間に数回しかコースは使われないでしょうが、これも飛行路との兼ね合いがあります。
問題山積です。私たちは、4月のIOC理事会ですべての変更案を承認してほしいと求めていましたが、それは6月に延期されました。しかし、調整委は4月末に理事会と協議し、競技会場案を完結させるよう最善を尽くします。

――選手の東京に関する経験はどうですか?
東京五輪招致委員会は立候補時に競技会場の85%は選手村から8キロの範囲内にあると説明していました。変更後は85%が66%に減少しました。それでもまだ良い成果といえるでしょう。選手にとってすばらしい経験になると思います。とても特別なものになるでしょうし、東京五輪組織委はそれをうまくやると思います。

――メインスタジアムとなる新国立競技場は2019年ラグビーワールドカップまでに建設される予定です。大会が開催される前に他の組織がメインスタジアムを竣工し、管理、運営することになりますが、安堵していますか?
はい、締め切りがあるのはすばらしい。

――メインスタジアムのデザインについてちょっとした議論が起こっています。 IOCはこれに関心を持っていますか?
いいえ、要求した仕様を満たしている限り、それは開催地の決めることだと考えています。

――2020年東京五輪での他の焦点は、新競技の採用問題です。
私は野球とソフトボール採択への圧力が高まっているという印象を受けています。この問題が浮上してからというもの、多くの競技団体から非常に強い要請があります。空手は日本では非常に有力な競技です。また、スカッシュもよく認知されています。南京ユースオリンピックの競技実践研究後、スケートボード、ローラースポーツ、スポーツクライミング、武術など新たな競技に関心が集まっています。
東京五輪組織委は、追加競技選択について自らの責任を明らかにしています。既に開催されていますが、委員会を設置しています。4月の終わりには私たちが今後の従うべきガイドラインを手渡し、東京五輪組織はそれをすべてこなして、9月までに私たちに提案をすることになります。

――つまり、9月には東京五輪組織委が提示したい新競技についての構想が分かるのですね。
東京五輪組織委がどんな種目を出してくるのでしょうか。その後、プログラム委員会と理事会を経て2016年のIOC総会で議論されます。

――IOCは参加選手数の上限を1万500人に設定していますが、東京五輪組織委はこの制限を超えずにいかにして新種目を追加することができるのですか。
(IOC承認の)国際競技連盟が提案するいかなる種目も、おおよそ1万500人の選手から構成されることになっている。まだオリンピック競技として承認されていない国際競技連盟によって提案されている種目ではこの1万500人という上限を超過することが許可されます。

――複数の競技が追加される可能性はありますか?
はい、それについてはオープンです。どのような場合においても採算が取れ、われわれの基準を満たしている必要があります。交通の便や宿泊施設などの費用負担について説明する必要があります。これらは公開競技ではありません。追加競技の選手は公式競技の選手と同じオリンピック・メダルを受け取るので、東京五輪組織委は選手を選手村に滞在させることができることを証明しなければなりません。東京五輪の場合、費用対効果を満たすのは容易でしょう。
どのような競技が東京五輪で採択されたとしても、そのための既存の競技会場があるでしょう。そして、選手村の計画では、60階建てのビルのうち15階もしくは16階までが利用される計画です。選手の部屋がもっと必要な場合は、他の階やもっと上の階を当てるのは簡単です。

――さて、これは東京五輪に限ったことですね。おそらく、話を前に進めて、開催都市が新しい競技を採択したい場合、その評価総括のようなものがあるのでしょうか?
そうですね、どの大会開催後にも評価総括があります。どの大会も3年前まで実施種目を削除できるように柔軟な憲章を定めているのはこのためです。しかし、新たに採択された競技は慎重にプログラム委員会によって検証され、必然的に将来立候補する都市が事前にその競技を支持するべきだと私は考えます。

――たとえば、立候補都市が「我々はこの競技、あるいは他の競技を採択したいのですが」といったことに対して、あなたは将来的に期待することがありますか。
そういうことは起こりうるでしょうね。

――森喜朗・東京五輪組織委会長と仕事を共にすることに関してはいかがでしょうか。
彼は非常に印象的な人です。これまで政府機関と組織委員会がこれほど緊密に連携しているのを見たことがない。森会長と安倍首相、そして舛添都知事との会合に臨んだ際、首相も知事も森さんは素晴らしい政治指導者だったと話していました。彼は政界で頼れる人物として尊敬されている。彼が非常に魅力的な人物だということが分かりました。

――森さんは異なる意見に対して柔軟でしょうか。
はい。

――「わが道の他に道は無し」といった独善家ではありませんか。
いいえ、そんなことはありません。彼は競技経験もあります。彼は一貫してラグビーに携わっています。私たちが記者会見を行う際、彼が尊敬されていることが分かります。日本社会は彼に信用を置いています。

――どのくらいの頻度で東京を訪れていますか。
私は去年5回東京を訪れました。これからは少なくとも毎年一回は訪問するでしょう。プロジェクト・レビュー、スポンサー発表、コーディネーション委員会などのために。

――東京五輪組織委との協議で同じタイムゾーンにいることは役立ちますか?
言語の関係で東京と電話で会話することはあまりありませんでした。競技部長(スポーツ・ディレクター)との会議がいくつかありますが、大会が近づくにつれもっと多くの時間を東京五輪組織委と割くようになってくることを望んでいます。

――足下の日本経済の方向性について、どのような印象を持っていますか? スポンサー権の販売や大会の財務面へのその影響について、なんらかの懸念を抱いていますか?
放映権やスポンサー探しの際に景気低迷やそれらの兆候は無いようでした。あなた自身も日本に経済的な問題があるような印象を持たれていないでしょう。東京五輪組織委はスポンサー権料で15億ドル(約1800億円)を調達できました。
消費税の引き上げが日本国内の消費を鈍化させています。また、建設費高騰問題も抱えています。デフレや他の要因にもかかわらず、日本経済は継続している。私は日本が非常に弾力性のある国だと思います。日本は世界三位の経済大国であるし、GDP面で見ると東京都は世界最大の都市です。東京へのオリンピックの影響は、シドニーのような小さな都市とは異なります。

――これからの4年間で東京はどのようになると思いますか。
私が楽しみにしていることは技術の進歩です。交通の面でどうなるかも楽しみですし、日本の高いレベルの技術面でもです。私はそれらが特別なものになると思います。

――日本の国内世論に関してですが、日本の国民はオリンピックに熱狂的な関心があると思いますか?
私は東京五輪組織委が日本の国民すべてをオリンピックに巻き込むのにいくつかの良い企画をしてきたと思います。いくつかの都道府県が既に練習場、競技会場、および聖火リレーについての私の国とコンタクトをしてきました。私はオリンピックに関する日本の世論についていささかの心配も抱いていません。オリンピックは日本の若者のために本当に良い機会です。

――東京五輪が東日本大震災での地震や津波被害からの復興に役立つだろうという議論があります。被災地復興と大会成功のバランスをどのように取るのですか?
東京五輪組織委の考え方では、5つの小さな箱があったとして、その一つが復興のため、被災者に真の希望を与えるもの。私はこうしたものは五輪準備にしっくりとそぐうと思います。

――東京五輪に関して他になにか懸念事項はありますか。
いいえ、東京五輪組織委の仕事に関して、とても心地よく思っています。彼らは耳を傾け、私たちのアドバイスに従ってくれる。彼らはオリンピックに向けての確かで素晴らしい資源を持っている。東京都は計画と管理に関しての十分な経験があり、その関係者の質は特筆に価します。

東京が2013年9月に2020年夏季五輪大会開催地に選出されたわずか3日後に、IOC副会長のコーツ氏は調整委員会委員長に選出された。これはトーマス·バッハIOC会長が就任して最初の高位役職の任命だった。弁護士のコーツ氏はオーストラリア・オリンピック委員会(AOC)で長年キャリアを積んできた。1990年以来、AOC会長職をつとめ、この間、2000年のシドニー五輪の立候補と開催準備にも携わってきた。また、シドニー五輪では組織委員会の副会長職にもあった。
コーツ氏は2001年以来IOC委員であり、2009年からはその理事をつとめる。調整委員会のメンバーとしては2012年ロンドン大会と2016年リオデジャネイロ大会に加え、2020年東京大会で3回目となる。また、コーツ氏はスポーツ仲裁裁判所長官でもある。コーツ氏は前年のオリンピック·ムーブメントで最も影響力のある人物年次調査、2015年ATR人物25選で第二位にランクされている。

—エド・フーラ編集長, 翻訳:小田光康・春日良一(ATR Japan)