リオ五輪の小関選手ら支える「着用するビート板」大阪・中小企業の底力

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写真上 練習用水着「ゼロポジション」。左が水泳初心者から中級者用、右が競泳選手用。(長穂智基撮影)

(ATR Japan)着用するだけで理想の水泳フォームに近づく…。夢のような練習用水着の名前は「ゼロポジション」。大阪市生野区に本社を置く山本化学工業(※)が製造している。
今年4月の日本選手権で100、200メートル平泳ぎの2冠を達成し、リオ五輪の平泳ぎ代表となった小関也朱篤(やすひろ)選手(24)も、このゼロポジションのユーザーの1人だ。五輪2大会連続で金メダリストとなった北島康介選手が現役引退を表明した後、小関選手には日本平泳ぎ界の新エースとしての期待がかかっている。
小関選手の他にも同じ水着を使用して、リオへの切符を掴んだのは男女合わせて5人。「ゼロポジション」とはどんな水着なのか。山本化学工業の常務執行役員、森本雅彦さん(46)に話を聞いた。(長穂智基、西村秋奈、 小嶋茜音)

―圧力抵抗を最小限に―
ゼロポジションは、ひと言でいうならば「着用するビート板」。その性能について、「(ゼロポジションは)速く泳ぐためだけの水着ではなく、理想的なフォームをつくる水着だ」と森本さんは語る。スイマーの浮心と重心の距離を限りなくゼロに近づけ、水の圧力抵抗を最小限に抑えるフォームを作る。泳ぐスピードが速くなるだけではない。選手にとって理想的なフォームやポジションを意識して練習することで体に覚えさせる。そうしながら、1日の練習を終えることができる。姿勢を最適に保つことで、自身の潜在能力を引き出し、結果的にタイムを縮めることに繋がっているという。

―「どら焼きの皮」を思わせる柔らかさ―
その成果は科学的にも実証されている。2008年、ゼロポジションの前身となる「高速水着」を使って水泳時の血中乳酸値(疲労度)を測るテストを行ったところ、従来の水着と比べその数値が低くなることが分かった。エネルギー消費の燃費を良くすることで、記録の更新を図ることができるからだ。
実際にゼロポジションに触れてみると、すごく柔らかいと感じる。例えるならば、「どら焼きの皮」のような柔らかさだ。表面はとても滑らか。競泳選手用のゼロポジションは厚さわずか1ミリ。この1ミリをまとうと、浮力が生み出だされ、フォームも変わる。

―普段以上のスピードを体感できる―
そもそもなぜ「練習用」に限定した水着を製造することにしたのか。その理由として、FINA(国際水泳連盟)が2010年に競泳用水着の認可を厳格化したことがあげられる。そのため山本化学工業は選手をトータルサポートする水着を目指し、ゼロポジションの開発を進めた。少しでも選手の体への負担を減らし、普段では味わうことのできないスピードを体感できるように。その結果、練習のバリエーションも増やすことができる。「ゼロポジション」は練習段階から選手のパフォーマンスを向上させるには効果的だ。

―「納得できるレースを」―
森本さんによると、最近では子どもや高齢者もゼロポジションを使用する人が増えてきているという。水中での理想な姿勢を作り出し、自然な泳ぎをアシストしてくれるゼロポジションは、子どもの「泳げない」を「泳げる」に、高齢者の「諦めるしかない寂しさ」を「生きる活力」へと導いているという。
現在入社24年目の森本さんは、そんなゼロポジションの生みの親だ。リオ五輪を前に、日本選手にエールを送る。
「自分が開発してきたものが、選手に受け入れられるのはやはりうれしい。必死に練習してきたと思うので、五輪本番で力を出し切って、自分が納得できるレースをしてほしい。その先にメダルがあればいいですね。応援しています」
スイマーの理想を実現させるゼロポジション。リオ五輪で真価が試される。

(※)山本化学工業 水泳、トライアスロンといったスポーツや医療機器などで使われるラバー素材を中心に製造している。1964年の創立以降、ラバー素材の新たな可能性を追究し続けてきた。その独自の技術を生かしたウェットスーツ素材や水着の分野では、世界水準で高い評価を受けている。現在は2016年FINA公認モデル競技用水着「マーリンマッハ」を製造している。

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写真左 五輪出場選手に対して「自分の納得のいくレースをしてもらいたい。」そう語る森本氏。(長穂智基撮影)

写真右 山本化学工業の本社。社屋前には加工済みのゴムが並べられている。(長穂智基撮影)