その一瞬、誰が強くて、誰が速いか ベテラン実況アナに五輪の見どころを聞く

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(五輪への思いを熱く語る四家秀治さん 梶木唯菜撮影)

(ATR Japan)躍動感あふれる実況放送は、世界の頂点を競う五輪には欠かせない。視聴者の記憶に残る“名実況”はどうやって生まれるのだろうか。シドニー五輪の実況で名を馳せ、いまなお第一線で活躍するスポーツ・アナウンサー、四家秀治さん(57)にインタビューし、リオ五輪の見どころやスポーツ実況に対する熱い思いを語ってもらった。(磯部愛、梶木唯菜、吉田諒)

■重量挙げや7人制ラグビーに注目

――いよいよリオ五輪が始まります。注目している競技は?
個人競技です。特に陸上。あとは重量挙げ。世界一が簡単にわかる競技は、五輪では陸上と、水泳と、重量挙げです。だって数字だけですし。数字が良い者が勝ちです。
重量挙げは1キロでも重いもの持ち上げたら価値がある。スーパーヘビー級は絶対見ますね。重量挙げの実況やるのが夢だったんですが、未だにやってないんですよね。もし体が3つあったら1つは重量挙げの実況をやると思います。バーベルの持ち上げフォームを真似する子供でしたから(笑)。
あとは7人制ラグビー。スポーツは人数が減る歴史ですよね。バレーボールだって昔は9人制じゃなかったですか。ラグビーも競技の進化ということを考えたら、7人制(が主流に)になっていく時代が来るんじゃないでしょうか。

――五輪の楽しみ方を教えてください。
単純に誰が速くて、強いか。そこをシンプルに見てほしいです。もともと五輪は個人競技のための大会なんですよ。古代もそうでした。相対的な強さより、個人の強さを見てほしいです。この人、こんな重い物を持ち上げられるんだ、と。ドーピングを使わないで、薬物を使わずに、ここまで人間ができるんだってことを見て、称賛してほしいです。

■五輪は勝ち負け以上の何かがある

――大会運営について最大の関心事は?
ロシアが全面的に出場を辞退しなかったことですね。ロシアの一流選手が来ないと大会が盛り上がらないから、ああいう決定にした。これがいいか悪いかは別にして、過去の五輪では、この国が出ないと盛り上がらないから、止めとこうという判断はなかったわけです。いろんな国が辞退したこともあったし、その昔、五輪はボイコットするのが珍しくなかった。
ところが1984年のロサンゼルス大会以降、五輪が商業主義に変わりました。選手もプロ化しました。その方が世界一を決める大会として面白いことは面白いんですけどね。勝ち負けにしかこだわらないようなイベントになったのは悲しい気がします。
もちろん、いざ大会が始まったら見ますし、日本を応援するんですけどね。僕は勝ち負け以上の何かがあるのがオリンピックだと思っています。それをリオで一つでも見られたらなと。
私は社会に出るとき、スポーツを報道することで生きていこうとに決めました。昔からスポーツを見て感動することで生きる力をもらってきたからです。だから、ドーピングをするようなスポーツには興味がないんですよね。

■アナを目指すきっかけも五輪

――理系出身とお聞きしましたが、なぜアナウンサーになろうと思ったのですか?
得意だった科目が理系だっただけです。それが大学入学への近道だったんです。幼い頃の僕はスポーツさえ観ていれば幸せでした。毎週日曜日はずっとスポーツをテレビで観戦していました。しかし、モスクワ五輪の中継を観ていた僕は、ショックを受けました。
元々、五輪はNHKが独占して中継権を持っていたのをテレビ朝日が買い取り、報じていました。でもね、このテレビ朝日の解説者がめちゃくちゃで(笑)。競技のルールもちゃんとわかっていないような人たちばっかりだし、(選手に対して)失礼だし。当時の僕は聞いていて腹が立ったよ(笑)。それなら「俺がやってやる」って思いました。それがアナウンサーを目指すようになったきっかけですね。

■シドニーで高橋尚子選手を実況

――五輪ならではの難しさはありましたか?
五輪は(放送の)枠や時間にゆとりがありました。普段より5割増しの実況ができましたね。僕はシドニー五輪でソフトボール全試合とボクシングの決勝の実況、それに陸上の女子マラソン30㎞地点の中継を担当しました。高橋尚子選手が金メダルに向かって、スパートを切った所です。
陸上のミックスゾーン(注:競技場の中で、報道関係者による選手への取材が許可されているエリア)の中継も担当したんだけど、あれは少しプレッシャーを感じたかな。だって周りは米国NBCとか、英国BBC(のレポーターたち)に囲まれていたからね(笑)。でも楽しいという気持ちの方が勝っていたかなあ。あの時は実況も好きでやっていたし、五輪も来たくて来たから。

■「想定外」を言葉にする

――スポーツの実況をする際に特に気を付けていることはありますか?
サービス精神をもってやるようにしていますね。ただ僕は2〜3時間話したら何かしらのミスをしてしまうんですよね(笑)。何かを見つけたらそれをすぐに視聴者に伝えたいと思って、その発見の確認を怠って、間違ってしまう。たとえば(野球の試合で)代走を送ったら、その選手の名前を間違えたり。どうして(ミスを)やるかなあって、自分でも思う。でもそれ以外の部分なら、情報量とか、競技の本質を伝える眼とかは、誰にも負けないつもりでやっています。

――実況をしていて楽しい瞬間は?
ある瞬間を自分が思ったような感覚で喋れたときでしょうね。やっぱりスポーツは基本的には筋書きがないから、とっさの状況にどう対応ができたかですよね。「想定外」とか、予想してもどうにもならないところをどう表現するか。その時に言葉がよどみなく出なくなったら、私は廃業します。まだあと10年くらいはやるつもりだけどね。

――四家さんにとってスポーツ実況の仕事とは?
どんなスポーツでも、全力でそれに傾けてやっている選手にとっては凄い瞬間ですから、その一瞬を伝えられる喜びでしょう。そして、その喜びを見つけながら仕事ができる楽しさですね。
一生懸命やっている人がいるから、絶対面白いんですよ。面白くなかったら一生懸命やるわけないですよ。そこを見つけだすことがこの仕事だと思います。

◇プロフィール
四家秀治(よつや・ひではる)さん
千葉県出身。同志社大工学部卒。RKB毎日放送アナウンサーを経て、テレビ東京へ入社。シドニー五輪ではソフトボールやボクシングなどの実況を担当した。現在はフリーアナウンサー。

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