【コラム】フェアプレーの真意 体操界の神聖な採点

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(リオデジャネイロ五輪・体操男子個人総合の決勝で金メダルの内村航平選手(左)、銀メダルのウクライナ代表、オレグ・ベルニャエフ選手 橋本大周撮影)

 (ATR Japan)大きなスポーツの大会で、審判への疑問や不満を抱く人は多いのではなかろうか。審判の判定一つで、結果に大きな影響を与えることも少なくない。この中で、とりわけ審判の裁量が大きく影響するのは採点競技、体操もその一つである。先日のリオデジャネイロ五輪・体操男子個人総合の決勝。日本代表の内村航平選手が、最終種目の鉄棒でウクライナ代表のオレグ・ベルニャエフ選手を逆転し、金メダルを獲得した。

 予選の鉄棒で15.133点を挙げていた最終演技者のベルニャエフは、最後の鉄棒で14.899点以上取れば金メダルが決まる状況だった。素人目から見てもミスなく演技を終えた彼が審判を待っていた。結果は、14.800点。この瞬間、内村の金メダルとベルニャエフの銀メダルが確定した。だが、会場はこの展開をすぐに飲み込めずにいた。両掌を軽く挙げたベルニャエフもあっけにとられていた。これは、誤審なのか、そう思った。

 試合後の記者会見、三人のメダリストが並んだ。ある記者が内村に対し「審判に気に入られていると思うか」という質問をした。内村は、「そんなことはないと思う。どんな選手でも、平等にジャッジされていると思っている。審判は、感情は(採点に)入れていないと思う」と答えた。少し後に、ベルニャエフに質問が向けられた。質問に答えたベルニャエフがふと、「先ほどの質問についてですが」と切り出した。「個人的なものはあると思うが、我々はスコアがフェアで神聖なものであると知っている。無駄な質問だ」と言い放った。前々日、体操男子団体で金メダルを獲得した内村は、記者会見で「やはり(オリンピックに)、前年の世界選手権の結果は、良い印象、空気、流れが影響すると思う」と話していた。

 審判は人間である以上、機械のように正確に採点することは難しい。選手の人間性や会場の雰囲気、演技の好みなど、あらゆることが審判一人一人の判断にほんの少し影響を与えている。しかしそれは、選手が審判に「気に入られている」のではなく、選手が審判に「良い印象を与えている」ということだろう。もちろん、その逆もあるだろう。しかし、その全てを含めて、選手も審判も「フェアプレー」なのだ。

 試合後に、ベルニャエフが「とにかくやるべきことをやる。後は審判に任せるという気持ちだった」と語ったように、選手や審判がそれを一番理解している。内村は「体操をもっと広めていきたい」と語ったが、体操界がこの「フェアプレー」を共有できている限り、その願いに近づいてゆけるのだろう。(橋本大周)